新聞コラムでの「外出と授乳」問題

先日対談したジャーナリストさんから

「公共の場での授乳の話題が盛り上がってますよね」

と連絡いただいたので、そのお話をしたいと思います。

(長文です)

先週の朝日新聞の「声」欄に、23歳の大学院生(女性)から

「店内での授乳に、戸惑う」という投稿がありました。

 

飲食店でアルバイトしている彼女からの投稿は、

お店に入ってきて授乳するお母さんたちに対し、

「ケープなどで隠しながら授乳する人も多いが、それでも目のやり場に困る」

「私は出産や育児を経験したわけではない」

「怒られるかもしれない。でも、授乳は授乳室でしてほしい」

というものでした。

 

この投稿に対し、さまざまな議論がネットを賑わせているそうです。

多くの母親たちは

「その場で授乳せざるを得ない状況もある。そんな風に言わないでほしい」

と言います。

 

今日はたまたま、日本助産師会の方々とこの話題になったのですが、

その助産師さんも私も共通するのは、「この23歳の女性を責められないと思う」ということでした。

 

なぜなら、子育てや授乳が身近になかった人にとっては、

授乳中の人にどう接すればいいのかわからない、というのは

ある意味当然だからです。

そして、その「子育てや授乳が身近になかった人」というのは、

今の日本で、決して少数ではないでしょう。

 

実は10年ほど前にも、同様の議論にコメントをしたことがあります。

その際も、レストランでの授乳に違和感があったと問題定義をしたのは若い女性。

 

それに対して、一番多かった意見は

「子どもが小さい頃くらい、外出をがまんするべきでは」というものでした。

 

次に多かったのは、赤ちゃんが母乳を飲むのは当然の権利だから、

どこででも堂々と授乳し、周りが気を使うべきという意見でした。

 

どちらも極端ではないか、という感想を抱かれる方も多いのではないでしょうか。

 

これら多数派の意見に対し、少数ながら

「隠してるんだからいいんじゃないの」という意見

(それに対し「いやでもケープは上からのぞくと見えるから危険だよ」という意見もあり)。

 

中には

「授乳そのものは見えなくても、授乳していることがわかるだけで気持ち悪い」という声、

さらには

「授乳するだけでこんな風に大騒ぎになるなんて。将来母乳育児はしたくないと思った」

という、いずれも若い女性の声もありました。

10年近くが経って、たいして状況が変わっていないことに、力不足を感じます。

 

実は私も、授乳服のことをラジオで話した時に、

「子どもがいない人の気持ちも考えてほしい」と言われたことがあります。

こうした公共の場での授乳の問題も、

たとえば、不妊治療をしている人たち、母乳育児を選ばなかった人たちにとってどう感じられるのか。

 

彼女たちが置かれた状況は、

仕事をつづけながら子どもを持つことが難しかった結果であったり、

医療者の不足であったり、さまざまな社会的な要因が、現状のベースにあります。

ですから、投書をした大学院生と同様に、

そうした方たちに過剰に「べき論」を求めることには違和感があります。

 

赤ちゃんは母乳をいつでも飲む権利があり、母親も与える権利があります。

でも、今の社会で、それを叶えようとしたときに出てくる不協和音。

そこには、社会のひずみが根底にあるように思えます。

 

その解決方法として、授乳ケープではなく、授乳室を増やすことではなく、

私が「胸が見えない授乳服」に行きついた理由は、おそらく、そこ、なのです。

 

実はこの記事、私も入手し、スタッフにも先週話したところでした。

今年は、私たちが本当に目指す授乳服をしっかり作って行こう、という話の中で記事を紹介し、「仮にこのお母さんがモーハウスの服を着ていたら、同じように感じたと思う?」

とスタッフに尋ねました。

スタッフたちは「思わない」と答えました。

なぜなら、授乳していることに気が付かないだろうから。

 

モーハウスを始めたきっかけは、19年前に電車で泣き出したわが子に、

車内で授乳した経験です。

胸をはだけるのは恥ずかしいことでしたが、そ

れに輪をかけたのは、授乳に至るまでに子どもを大泣きさせたこと。

これで車内中の注目を集めることになったわけです。

 

その経験から、周囲に気づかれずに授乳するには、

「素早く授乳できる」「胸が見えない」の二つをクリアしなければと考えるようになりました。

「社会と子育てをつなぐ環境」としての授乳服には、不可欠な要素だと考えています。

 

授乳という行為を社会と切り離していた長い期間の溝を埋めていくには、

まずは、気持ちに波風が立たないような解決方法を取る。

お互いに気を使う必要がない。でも、気が付けば、

世の中のお母さんたちが、公共の場で授乳している姿が当たり前になる。

そんなイメージを描きながら、「胸が見えない授乳服」を作り続けたいと思います。

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